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【心へのフォーカス ハービー・山口#9】わが家で撮影した吉川晃司 常に格好良く真っすぐに

被写体の「明日の幸せ」をそっと願って撮り続け、半世紀を超えた写真家のハービー・山口さんが、著名人を活写したカットを紹介。撮影秘話や心の交流を振り返る連載の第9回。

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 歌手で俳優の吉川晃司を長年撮影させてもらっている。家族ぐるみの付き合いも生まれた。2人で海外旅行をして印象に残ったのは、吉川の常に格好良く夢に向かって真っすぐに生きる姿だ。

 1989年冬、民主化が急激に進む東欧を見に行かないかと吉川に誘われた。ギタリスト布袋寅泰と結成した「COMPLEX」の新曲に向けた歌詞を書くためだった。

 ベルリンの壁が崩壊するさなかの西ベルリン、チェコスロバキア、ハンガリー、オーストリアを2人で旅した。西ベルリンでは現地の人にハンマーを借り、壁の破片をさらにたたき割ってみたことがある。

 吉川は緊迫と混沌の世界を生き抜く思いを歌詞にしたためていた。帰国の航空機の中でも書いていた。こうして90年リリースのアルバム「ROMANTIC 1990」が誕生した。

 激動の時代、現場の空気感を作品に取り込もうとし、真摯にアーティストとしての道を歩んでいた。公演会場の楽屋で、布袋が「吉川が実にいい歌詞を書いた」と私にそっと教えてくれた。

 メール形式の恋愛小説を吉川がつづったCDブック「エンジェルチャイムが鳴る夜に」(2006年刊)に収めたカットは、実はわが家のリビングで撮影した。私の家族アルバムを広げ、生まれたばかりの頃の息子の写真を見ている。吉川は優しいまなざしを向けてくれた。

 撮影が決まると1週間ほど前から体を絞り、フェースラインをシャープにして臨む吉川。たゆまぬ努力に裏打ちされ、進化していく姿から目が離せない。

【略歴】ハービー・山口 1950年東京都生まれ。写真家を目指し、73年から約10年間ロンドンで過ごした。帰国後は著名アーティストや市井の人々にレンズを向け、優しいトーンのモノクロ作品は多くのファンを持つ。ラジオ番組のパーソナリティーとしても活躍。

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